日本社会保障法学会が総力をあげて取り組んできた学会講座全6巻が2001年12月に刊行されました。全6巻の目次を中心にした案内パンフレットを掲載します。(編者:日本社会保障法学会、発行:法律文化社)。注文は、法律文化社へ tel.075-791-3131 fax 075-721-8400)
社会保障が人権としての地位を占めるようになってから半世紀が経過した。日本の社会保障は、第二次大戦後の焦土の中から生存権を基本理念として出発し、発展してきた。その歩みは、一九四〇年代後半から五〇年代の生活保護の時代、六〇年代の皆保険・皆年金時代、一九七三年の第一次オイルショックに始まり、八三年の老人保健法に代表される社会保障「再編成」の時代、そして介護保険を第一歩とする「構造改革」の九〇年代へとたどることができよう。
新たな世紀に入り、人間の尊厳、自己決定参加等が語られる時代になった。発展し豊かになったこれら理念、原則の内容と相互関係を明らかにするとともに、人権保障にふさわしい21世紀の社会保障制度をどう構築すべきか問われている。
日本社会保障法学会は、一九八二年に創設されたが、その前身の研究会時代から数えて四半世紀の歴史を重ね、その時々の課題に応え、社会保障法学の立場から社会保障発展に寄与してきた。
本講座は、日本社会保障法学会の歴史と蓄積を踏まえ、新たな課題に果敢に挑戦したものである。
講座刊行の目的は、第一に、「社会保障法に関する研究を推進し、国民の健康にして文化的な生活の確保に貢献すること」(日本社会保障法学会規約第三条) であり、第二に、学会の理論水準を問うと同時に、社会保障の権利への理解を促進すること、そして第三に、21世紀を展望した論争と問題提起の書とすることである。
全6巻の構成は、第1巻を総論とし、第2〜5巻を各論とする、給付内容別の構成をとっている。第6巻は、社会保障法の発展の方向を探求し、将来展望を語るものである。その意味で、本講座全6巻は、日本社会保障法学会として社会保障の権利を保持するための「不断の努力」(憲法第一二条)の一つといってよいであろう。
本講座が、社会保障発展の一助となり、人々が安心して暮らすことのできる社会の構築に寄与することができれば幸いである。
「福祉国家の危機」が論じられて久しい。ベヴァリッジ報告書(一九四二年)にはじまる社会保障の理念は、六〇年を経て多くの課題に直面している。戦後のわが国の立法の展開を総括し、今日における権利論の到達点を明らかにするとともに、社会保障の明確な将来像を示すことを目的にした本講座の総論。
第T部 社会保障法の基本問題 | |
1章 社会保障法の目的理念と法体系 | 河野正輝 |
2章 社会保障と基本的人権 | 竹中 勲 |
3章 社会保障の権利 | 菊池馨実 |
4章 社会保障の組織と運営 | 田村和之 |
5章 社会保障の人的適用範囲 | 馬渡淳一郎 |
6章 社会保障の給付 | 堀 勝洋 |
7章 社会保障の財政 | 江口隆裕 |
8章 社会保障の権利擁護・救済手続 | 西田和弘 |
第U部 社会保障法の論争点 | |
1章 社会保障と家族 | 木下秀雄 |
2章 社会保障とジェンダー | 浅倉むつ子 |
3章 社会保障と損害賠償 | 加藤雅信・平林美紀 |
第V部 社会保障法の国際化 | |
1章 国際社会保障基準の形成と日本法の課題 | 高倉統一 |
2章 社会保障をめぐる国際協力 | 伊奈川秀和 |
傷病、障害、死亡、失業、離婚などの個人や世帯の生活の経済的基盤を危うくする事由が発生した場合に、所得保障を目的とする給付を行うのが所得保障法であり、年金保険法、労働保険法、児童手当・児童扶養手当法等から成る。これらの法を概観するとともに、その問題点を指摘し、政策的課題を提示する。
第T部 総論 | |
1章 所得保障法の構造 | 岩村正彦 |
2章 社会保障制度における生活保障と所得保障 | 加藤智章 |
第U部 年金保険 | |
1章 基礎年金の制度設計 | 小島晴洋 |
2章 厚生年金保険の現状と課題 | 森戸英幸 |
3章 企業年金制度 | 国武輝久 |
4章 公的年金と女性 | 竹中康之 |
5章 障害者の所得保障 | 山田耕造 |
第V部 労働保険 | |
1章 労災職業病の変容と労災保険 | 西村健一郎 |
2章 雇用政策と所得保障 | 清正 寛 |
3章 育児・介護休業給付 | 水島郁子 |
第W部 児童手当 | |
1章 児童手当制度の展望 | 山田 晋 |
2章 児童扶養手当の現状と課題 | 福田素生 |
社会福祉基礎構造改革により社会福祉サービスは、大きな転換期にさしかかっている。公的責任で福祉サービスを行う北欧型と民間に委ねるアメリカ型。日本の福祉はどの方向に進もうとしているのだろうか。社会福祉に投げかけられた現代的課題を取り上げ、21世紀を展望する視点や立脚点を明らかにする。
総論 医療保障法・介護保障法の形成と展開 | 井上英夫 |
第T部 総論 医療保障法 | |
1章 福祉をめぐる状況と展望 | 橋本宏子 |
2章 福祉サービスの公的責任 | 芝田英昭 |
3章 福祉サービスの利用方法 | 品田充儀 |
4章 福祉サービスの基準と質の保障 | 瀧澤仁唱 |
5章 福祉サービスの供給主体 | 増田雅暢 |
6章 福祉サービスの紛争解決 | 矢嶋里絵 |
7章 福祉サービスの利用者と福祉の権利 | 秋元美世 |
第U部 社会福祉サービスの現代的課題 | |
1章 児童虐待に関する法制度とその課題 | 吉田恒雄 |
2章 障害者福祉における平等保障 | 大谷 強 |
3章 福祉と計画 | 神長 勲 |
4章 福祉サービスの担い手と法的諸問題 | 今野順夫 |
5章 分権化と福祉サービス | 前田雅子 |
介護保険の登場で、新たな世紀は医療保障法、介護保障法の一層の発展と根本的改革が課題となっている。これらの法体系と構造を明らかにするとともに、アジアの諸制度も視野に入れ、個人、家族、地域のあり方と国家制度としての両法の関係を考察する。加えて、人権を柱としたケア保障法も展望する。
第T部 総論 社会福祉サービスの基本問題 | |
1章 医療保障法の体系と構造――権利論の視点から | 国京則幸 |
2章 医療保障法の現状と課題 | 倉田聡 |
3章 医療保障と医療供給体制の整備・再編 | 久塚純一 |
4章 医療保障と平等 | |
4−1 高齢者医療を中心に | 山本忠 |
4−2 国籍、貧困、地域による不平等を中心に | 高田清恵 |
第U部 介護保障法 | |
1章 介護保障法の体系と構造――権利論の視点から | 本沢巳代子 |
2章 介護保険給付の実態と課題 | 廣瀬真理子 |
3章 介護提供体制の組織と構造 サービスの質を保障する視点から | 増田幸弘 |
4章 介護保障と家族 | 山脇貞司 |
第V部 医療保障法・介護保障法の展望――個人、家族、地域との関わりで | |
1章 医療保障法の展望 | 上村政彦 |
2章 介護保障法の展望 | 古橋エツ子 |
3章 個人、家族、地域と医療保障・介護保障――アジアと日本 | |
3−1 韓国の医療保障・介護保障 | 片桐由喜 |
3−2 中国のの医療保障・介護保障 | 黄 金衛 |
3−3 フィリピンの医療保障・介護保障 | 神尾真知子 |
長引く経済不況は健康で文化的な生活を脅かしている。住居の貧しさが生活基盤をさらに脆くしている。住居保障法を社会保障法体系の中に位置付け、基本的人権の基礎としての居住の権利の確立を検討するとともに、最低生活保障の最後のセーフティネットである生活保護法の権利の再構築と立法政策的課題を提起する。
第T部 住居保障法 | |
1章 居住の権利と住居保障法 | 坂本重雄 |
2章 居住問題と住宅政策 | 大本圭野 |
3章 住居保障と社会福祉 | 関川芳孝 |
4章 災害と住居保障 | 平山洋介 |
第U部 公的扶助法 | |
1章 公的扶助法における権利と法の構造 | 阿部和光 |
2章 最低生活保障と平等原則―外国人への適用を中心に | 林 弘子 |
3章 家族の変容と公的扶助 | 赤石壽美 |
4章 資産・能力活用と公的扶助 | 石橋敏郎 |
5章 最低生活基準の今日的課題 | 片岡 直 |
6章 医療・介護と最低生活保障 | 石田道彦 |
7章 公的扶助の行政組織と福祉労働 | 河合克義 |
8章 公的扶助費用の法関係 | 良永彌太郎 |
21世紀の福祉社会における社会保障法の発展を展望する。社会、保障を、総合的「生活保障制度」の一環と位置付け、教育・就労、財政や非営利組織など保障基盤の意義を明らかにする。そして、様々な関連領域での市民運動、裁判などを踏まえて、社会保障法の新たな課題と発展方向を検討する。
第T部 社会保障法の関連領域 拡大と発展 | |
1章 教育保障と社会保障法 | 高野範城 |
2章 雇用・就労保障と社会保障法 | 脇田 滋 |
3章 障害者の雇用・就労保障と社会保障法 | 中島正雄 |
4章 社会保障と非営利組織――福祉供給における非営利組織の位置と役割を中心に | 鈴木 勉 |
5章 社会保障と納税者基本権 | 北野弘久 |
第U部 被害者救済制度の拡大と発展 | |
1章 総論 賠償・補償から社会保障制度へ | 藤原精吾 |
2章 医療・薬害被害者救済制度の課題 | 池永 満・久保井摂 |
3章 公害被害者救済制度の課題 | 松本克美 |
4章 被害者支援制度の課題 | 諸澤英道 |
5章 自然災害被害者に対する公的支援の法システムの課題―市民立法運動の経験から | 伊賀興一 |
第V部 権利保障制度の拡大と発展 | |
1章 社会保障関連争訟の意義と展望 | 笛木俊一・烏野 猛 |
2章 生活保護・福祉サービス関連争訟の現状と課題 | 尾藤廣喜 |
3章 社会保障の権利と裁判費用 | 竹下義樹 |
4章 新たな権利保障制度の発展 | 大曽根寛 |